読書日記

夏休み企画〈書評でGo on a Trip!〉日本:西日本編

  • 2020/08/25
〈書評でGo on a Trip!〉日本・西日本編(近畿/中国/四国/九州・沖縄)です。
※Special Thanks!:書評推薦者 くるくるさん、hiroさん、やすだともこさん、山本陽子さん

近畿にGo!

【滋賀県】
今村 翔吾『八本目の槍』(新潮社)

評者:本郷 和人

彼らの思いは一つ。太閤殿下・秀吉のご恩に報いること。ではなぜ彼らは異なる道を選択したのか。特に佐吉こと石田三成は、なぜ皆の協力を得ぬままに、強大な家康に挑んで敗れたのか。(この書評を読む)

八本目の槍 / 今村 翔吾
八本目の槍
  • 著者:今村 翔吾
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(394ページ)
  • 発売日:2019-07-18
  • ISBN-10:4103527110
  • ISBN-13:978-4103527114
内容紹介:
知れば知るほど、胸が躍る。賤ケ岳の七本槍、そして石田三成の波乱の人生と哀しき秘密。歴史小説最注目作家、期待の上をいく飛翔作。

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【京都府】
井上章一『京都ぎらい』(斎藤 環)

評者:斎藤 環

「千年の古都のいやらしさ」と帯にある。あ~はいはい、「ぶぶ漬け」が帰宅フラグで、「この前の戦争」が応仁の乱なんでしょう? そんな先入観で本書を読み始めた評者(東北人)は、想像をうわまわる恐怖にうち震えた。(この書評を読む)

京都ぎらい / 井上章一
京都ぎらい
  • 著者:井上章一
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:新書(224ページ)
  • 発売日:2015-09-11
  • ISBN-10:4022736313
  • ISBN-13:978-4022736314
内容紹介:
【歴史地理/伝記】あこがれを集める歴史の都・京都! そんな古都を「きらい」と明言するのは、京都育ちで、ずっと京都に住んでいる著者だ。千年積もった洛中人の毒や、坊さんと舞子さんとのコラボレーションなど、「こんなん書いてええのんか?」という衝撃の新京都論。

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【大阪府】
楡 周平『修羅の宴』(講談社)

評者:逢坂 剛

この小説は、激動期を生きた滝本個人の栄枯に託して、日本経済そのものの盛衰を描いた、渾身の力作である。(この書評を読む)

修羅の宴 / 楡 周平
修羅の宴
  • 著者:楡 周平
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(458ページ)
  • 発売日:2012-07-19
  • ISBN-10:4062177145
  • ISBN-13:978-4062177146
内容紹介:
バブル期に大銀行から出向し、専門商社社長になった高卒の男。その城に居座るには結果を出し続けるしかなかった。未踏のビジネスを開拓し、頭取からの汚れ仕事を引き受け、伸し上がる。地価も… もっと読む
バブル期に大銀行から出向し、専門商社社長になった高卒の男。その城に居座るには結果を出し続けるしかなかった。未踏のビジネスを開拓し、頭取からの汚れ仕事を引き受け、伸し上がる。地価も株価も天井知らずな狂乱の時代に蠢く、金だけを追い求める修羅たち。その宴は次第に、決して招いてはいけない男たちに巣くわれていく-。「週刊現代」連載、著者ならではの筆致で迫る、剥き出しの人間ドラマ。渾身の傑作企業小説。

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【兵庫県】
小川洋子『ミーナの行進』(中央公論新社)

評者:井上ひさし

小説の枠組みはこうである。一九七二(昭和四十七)年春から一年間、語り手の「私」は、芦屋の伯母の屋敷で暮らすことになった。伯母は「私」の母の姉、フレッシーという清涼飲料水で財をなした会社創始者の御曹司と結婚している。(この書評を読む)

ミーナの行進  / 小川 洋子
ミーナの行進
  • 著者:小川 洋子
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(348ページ)
  • 発売日:2009-06-01
  • ISBN-10:4122051584
  • ISBN-13:978-4122051584
内容紹介:
美しくて、かよわくて、本を愛したミーナ。あなたとの思い出は、損なわれることがない-ミュンヘンオリンピックの年に芦屋の洋館で育まれた、ふたりの少女と、家族の物語。あたたかなイラストとともに小川洋子が贈る、新たなる傑作長編小説。第四二回谷崎潤一郎賞受賞作。

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【奈良県】
中村 士『古代の星空を読み解く: キトラ古墳天文図とアジアの星図』(東京大学出版会)

解説:中村 士

奈良県所在のキトラ古墳内部の天井に、詳細な天文図が描かれていることが発見されたのは一九九八年、この古墳自体の調査開始は一九八三年からだから、もう三十五年が経過した。(この書評を読む)

古代の星空を読み解く: キトラ古墳天文図とアジアの星図 / 中村 士
古代の星空を読み解く: キトラ古墳天文図とアジアの星図
  • 著者:中村 士
  • 出版社:東京大学出版会
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:2018-12-24
  • ISBN-10:4130637142
  • ISBN-13:978-4130637145
内容紹介:
奈良のキトラ古墳.その天井には精緻な星図が描かれていた.いったいいつ頃の星図なのか.そして何をベースとして描かれたのか——.キトラ古墳解読で生み出した年代推定法を用い,世界の歴史的星図・星表の観測時期を推定.それぞれの星図や星表にまつわる謎を読み解く.

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【和歌山県】
神坂 次郎『縛られた巨人―南方熊楠の生涯』(新潮社)

評者:紀田 順一郎

とにかく熊楠という人物が躍動している。和歌山弁で自在にしゃべり、笑い、嘆き、怒りまくる。(この書評を読む)

縛られた巨人―南方熊楠の生涯  / 神坂 次郎
縛られた巨人―南方熊楠の生涯
  • 著者:神坂 次郎
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(502ページ)
  • 発売日:1991-12-24
  • ISBN-10:410120912X
  • ISBN-13:978-4101209128
内容紹介:
異常な記憶力、超人的行動力によって、南方熊楠は生存中からすでに伝説の人物だった。明治19年渡米、独学で粘菌類の採集研究を進める。中南米を放浪後、ロンドン大英博物館に勤務、革命家孫文とも親交を結ぶ。帰国後は熊野の自然のなかにあって終生在野の学者たることを貫く。おびただしい論文、随筆、書簡や日記を辿りつつ、その生涯に秘められた天才の素顔をあますところなく描く。

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中国地方にGo!

【鳥取県】
桜庭 一樹『製鉄天使』(東京創元社)

評者:仲俣 暁生

物語の始まる1979年3月の時点で小豆は小学生。製鉄所の娘である彼女には、彫刻刀からバイクまで、鉄製の道具ならば意のままに操れる特殊な才能が備わっている。中学進学後、わずか4人の手勢で女子暴走族「製鉄天使」を結成した小豆は、地元の「エドワード族」を倒したのを皮切りに、山陰地方、ついで中国地方全土の制圧に成功する。(この書評を読む)

製鉄天使  / 桜庭 一樹
製鉄天使
  • 著者:桜庭 一樹
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(365ページ)
  • 発売日:2012-11-30
  • ISBN-10:4488472036
  • ISBN-13:978-4488472030
内容紹介:
東海道を西へ西へ、山を分け入った先の寂しい土地、鳥取県赤珠村。その地に根を下ろす製鉄会社の長女として生まれた赤緑豆小豆は、鉄を支配し自在に操るという不思議な能力を持っていた。荒ぶ… もっと読む
東海道を西へ西へ、山を分け入った先の寂しい土地、鳥取県赤珠村。その地に根を下ろす製鉄会社の長女として生まれた赤緑豆小豆は、鉄を支配し自在に操るという不思議な能力を持っていた。荒ぶる魂に突き動かされるように、彼女はやがてレディース"製鉄天使"の初代総長として、中国地方全土の制圧に乗り出す-一九八×年、灼熱の魂が駆け抜ける。伝説の少女の唖然呆然の一代記。

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【島根県】
角田 徳幸『たたら製鉄の歴史』(吉川弘文館)

前書き:角田 徳幸

(『もののけ姫』の)こうしたシーンは、たたら製鉄をテーマにした博物館である島根県安来(やすぎ)市和鋼(わこう)博物館、日本で唯一現存するたたらである雲南市吉田町菅谷鈩(すがやたたら)などの取材を通して作り上げられたという。(この書評を読む)

たたら製鉄の歴史 / 角田 徳幸
たたら製鉄の歴史
  • 著者:角田 徳幸
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(237ページ)
  • 発売日:2019-05-17
  • ISBN-10:4642058842
  • ISBN-13:978-4642058841
内容紹介:
生産地の移動や技術革新からその発展を探り、「海のたたら、山のたたら」の視点で多様性を解明。産業や暮らしを支えた実像に迫る。

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【岡山県】
小川 洋子『まぶた』(新潮社)

評者:堀江敏幸

小川洋子は、この薄い膜の開閉ひとつですべてが決まり、すべてが終わってしまうはかない劇を見つづけてきた書き手だが、まぶた、という言葉を作品集全体に冠したことによって、一篇一篇の切なさのかたちがより明確になったように思われる。(この書評を読む)

まぶた / 小川 洋子
まぶた
  • 著者:小川 洋子
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(221ページ)
  • 発売日:2004-10-28
  • ISBN-10:4101215227
  • ISBN-13:978-4101215228
内容紹介:
15歳のわたしは、高級レストランの裏手で出会った中年男と、不釣合いな逢瀬を重ねている。男の部屋でいつも感じる奇妙な視線の持ち主は?──「まぶた」。母のお気に入りの弟は背泳ぎの強化選手だ… もっと読む
15歳のわたしは、高級レストランの裏手で出会った中年男と、不釣合いな逢瀬を重ねている。男の部屋でいつも感じる奇妙な視線の持ち主は?──「まぶた」。母のお気に入りの弟は背泳ぎの強化選手だったが、ある日突然左腕が耳に沿って伸ばした格好で固まってしまった──「バックストローク」など、現実と悪夢の間を揺れ動く不思議なリアリティで、読者の心をつかんで離さない8編を収録。

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【広島県】
フェルディナント・ヤマグチ『仕事がうまくいく7つの鉄則 マツダのクルマはなぜ売れる?』(日経BP社)

評者:楠木健

世界の自動車市場でのシェアはたったの2%。にもかかわらず、ファンの心をがっちりつかみ、好業績をたたき出す。(この書評を読む)

仕事がうまくいく7つの鉄則 マツダのクルマはな ぜ売れる? / フェルディナント・ヤマグチ
仕事がうまくいく7つの鉄則 マツダのクルマはな ぜ売れる?
  • 著者:フェルディナント・ヤマグチ
  • 出版社:日経BP社
  • 装丁:単行本(248ページ)
  • 発売日:2016-03-18
  • ISBN-10:482227943X
  • ISBN-13:978-4822279431
内容紹介:
2000年代初頭につぶれかけたマツダがなぜ大復活を遂げられたのか。仕事で成果を出すための7つの鉄則を紹介する。

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【山口県】
桐原 健真『吉田松陰: 「日本」を発見した思想家』(筑摩書房)

評者:磯田 道史

松陰の「思想遍歴」を追って論じた思想史の本であり、この本を読めば、松陰が、どのようにして松陰になったのかがわかる。(この書評を読む)

吉田松陰: 「日本」を発見した思想家  / 桐原 健真
吉田松陰: 「日本」を発見した思想家
  • 著者:桐原 健真
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:新書(248ページ)
  • 発売日:2014-12-08
  • ISBN-10:4480068074
  • ISBN-13:978-4480068071
内容紹介:
2015年大河ドラマに登場する吉田松陰。維新の精神的支柱でありながら、これまであまり紹介されなかったその思想家としての側面に初めて迫る画期的入門書。

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四国にGo!

【徳島県】
宇野 千代『おはん』(新潮社)

評者:森 まゆみ

宇野千代の小説には慰めがあり、知的であり、自分をつき放す爽快感があり、こんな風に生きてみたいと思わせる強さとカッコ良さがある。どんなときも恨みや愚痴をいわず、何ごとも前向きに解釈し、事態を好転させていく。(この書評を読む)

おはん / 宇野 千代
おはん
  • 著者:宇野 千代
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(128ページ)
  • 発売日:1965-02-02
  • ISBN-10:4101027021
  • ISBN-13:978-4101027029
内容紹介:
妻と愛人、二人の女にひかれる男の情痴のあさましさを、美しい上方言葉の告白体で描き、幽艶な幻想世界を築いて絶賛を集めた代表作。「人にもの問われても、ろくに返答もでけんような穏当な… もっと読む
妻と愛人、二人の女にひかれる男の情痴のあさましさを、
美しい上方言葉の告白体で描き、幽艶な幻想世界を築いて絶賛を集めた代表作。

「人にもの問われても、ろくに返答もでけんような穏当な女」である主人公“おはん"は、夫の心がほかの女、芸妓“おかよ"に移ったとき、子供を身ごもったまま自分から実家に退いた。おはんとおかよ、二人の女に魅(ひ)かれる優柔不断な浅ましくも哀しい男の懺悔――。
頽廃的な恋愛心理を柔軟な感覚と特異な語り口で描き尽し、昭和文学の古典的名作とうたわれた著者の代表作。

宇野さんはこの小説を書くのに十年の時間をかけたという。時間をかけた仕事のいみじさを、はっきり感じる。しかも十年まえ十年あとの記述にむらがない。一つの作にこれだけ打ち込んだ宇野さんに敬意を表したい。――久保田万太郎
あくまで古風な、日本庶民の、或は凡夫の、懺悔心をひそめた〈かきくどく〉調子で全篇がつらぬかれている。――亀井勝一郎
木で熟した果実は速成とは味が違う。二人の女にひかれる男の情痴の浅ましさを極度に抽象して、ほとんど観念的な美にまで昇華して描いている。――河上徹太郎
近松でも読む様な一種の味わいがあって面白かった。特に初めの方がよいと思った。作者は、時も場所も不問に附し、不思議な魅力を持った話術を創案して、言葉が言葉だけの力で生き長らえたいと言っている様な、一種の小説的幻想世界を発明している。事実に屈服した現代小説界では珍しい事である。――小林秀雄

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【香川県】
土橋 章宏『駄犬道中こんぴら埋蔵金』(小学館)

評者:本郷和人

待ってました! 先のお伊勢さま「おかげ参り」に続いて、今回は「こんぴらさま」だ!「こんぴらさま」とは讃岐(香川県)の金刀比羅宮(ことひらぐう)のこと。由緒あるお宮であったが、戦国時代の兵火により一たん荒廃。ところが江戸時代になるや、全国の民衆のたいへん熱い支持を得た。いってみれば「庶民派の神さま仏さま」であり、当時は「神仏習合」により象頭山金毘羅(ぞうずさんこんぴら)大権現と呼ばれた。(この書評を読む)

駄犬道中こんぴら埋蔵金 / 土橋 章宏
駄犬道中こんぴら埋蔵金
  • 著者:土橋 章宏
  • 出版社:小学館
  • 装丁:単行本(380ページ)
  • 発売日:2017-10-23
  • ISBN-10:4093864810
  • ISBN-13:978-4093864817
内容紹介:
目指すは鼠小僧の埋蔵金!笑劇珍道中第二弾 時は天保元年おかげ年。伊勢へのおかげ参りを無事終えた辰五郎、沙夜、三吉、翁丸は、四国の金毘羅を目指すことに。京から大坂へと入った一行は… もっと読む
目指すは鼠小僧の埋蔵金!笑劇珍道中第二弾

時は天保元年おかげ年。伊勢へのおかげ参りを無事終えた辰五郎、沙夜、三吉、翁丸は、四国の金毘羅を目指すことに。
京から大坂へと入った一行は、辰五郎のガマの油売りの師匠から「お宝の地図」だという巻物を託される。
そのお宝とは、なんと巷を賑わす大泥棒・鼠小僧の埋蔵金!?
巻物を狙って次々と襲いかかる刺客たち。
三人と一匹は無事に金毘羅へと辿り着き、埋蔵金を手にすることができるのか。
日本アカデミー賞作家が描く、笑いと涙と釣りと博打とご当地グルメ満載の笑劇珍道中。待望のシリーズ第二弾!





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【愛媛県】
司馬遼太郎『坂の上の雲』(文藝春秋)

評者:山崎正和

司馬遼太郎さんの作家としての一番の関心事は、明治以降の国民国家としての日本というものだったと思います。(この書評を読む)

新装版 坂の上の雲   / 司馬 遼太郎
新装版 坂の上の雲
  • 著者:司馬 遼太郎
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(350ページ)
  • 発売日:1999-01-10
  • ISBN-10:4167105764
  • ISBN-13:978-4167105761
内容紹介:
明治維新をとげ、近代国家の仲間入りをした日本は、息せき切って先進国に追いつこうとしていた。この時期を生きた四国松山出身の三人の男達-日露戦争においてコサック騎兵を破った秋山好古、日本海海戦の参謀秋山真之兄弟と文学の世界に巨大な足跡を遺した正岡子規を中心に、昂揚の時代・明治の群像を描く長篇小説全八冊。

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【高知県】
大原 富枝『草を褥に―小説牧野富太郎』(小学館)

評者:紀田 順一郎

牧野に関する従来の伝記とは異なり、本書は妻の苦闘にスポットをあてている。経済観念ゼロの夫にかわって質屋に通い、乳飲み子をかかえながら借金取りを撃退したり、待合を経営したりする。過労がたたって東京帝大の付属病院に入院するが、臨終のさいにも入院費が切れたため、情け容赦もなくシーツにくるまれ、ベッドから放り出されてしまった。(この書評を読む)

草を褥に―小説牧野富太郎 / 大原 富枝
草を褥に―小説牧野富太郎
  • 著者:大原 富枝
  • 出版社:小学館
  • 装丁:単行本(229ページ)
  • 発売日:2001-04-10
  • ISBN-10:4093433518
  • ISBN-13:978-4093433518
内容紹介:
「植物界の巨人」光と翳の実生涯。書簡で初めて明かされる「奔放」と「純愛」。自らを「植物の精」と呼び、植物分類学に生涯を捧げた牧野富太郎博士。この稀代の学者と妻・寿衛子の波乱に富む生涯の詳細記録―。『婉という女』から40年。大原文学の最終到達点。

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【四国】
大江 健三郎『同時代ゲーム』(新潮社)

評者:井上 ひさし

ひとりの歴史教師が、かつて「村」(終始、「村=国家=小宇宙」と表記されているのだが)の青少年たちの性的あこがれであり、のちキャバレーで艶名をはせ、妊娠中絶手術の病後を養うため帰村中のところをこの歴史教師に襲われ、のちに東京銀座で盛業のクラブを経営し、たまたま来日した米国副大統領閣下の性的友だちの役目も引き受け、果ては入水自殺をとげ、死んだと思えばまた現れて、いまは四国山中の大きい森のなかのその村で巫女たらんとしている自分の双子の妹に向けて、呆れるほどの情熱をもってしたためる六通の長い手紙、これが語りの層である。(この書評を読む)

同時代ゲーム  / 大江 健三郎
同時代ゲーム
  • 著者:大江 健三郎
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(592ページ)
  • 発売日:1984-08-01
  • ISBN-10:4101126143
  • ISBN-13:978-4101126142
内容紹介:
海に向って追放された武士の集団が、川を遡って、四国の山奥に《村=国=家=小宇宙》を創建し、長い〈自由時代〉のあと、大日本帝国と全面戦争に突入した!? 壊す人、アポ爺、ペリ爺、オシコメ、… もっと読む
海に向って追放された武士の集団が、川を遡って、四国の山奥に《村=国=家=小宇宙》を創建し、長い〈自由時代〉のあと、大日本帝国と全面戦争に突入した!? 壊す人、アポ爺、ペリ爺、オシコメ、シリメ、「木から降りん人」等々、奇体な人物を操り出しながら、父=神主の息子〈僕〉が双生児の妹に向けて語る、一族の神話と歴史。得意な作家的想像力が構築した、現代文学の収穫1000枚。

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九州・沖縄にGo!

【福岡県】
東海林さだお『行くぞ!冷麺探険隊』(文藝春秋)

評者:鹿島茂

「博多の夜の食べまくり」の「推定年齢六十九歳」の「おねえさん」の会話の拾い方を見れば、氏がバルザック級の慧眼の持ち主であることは容易に見て取れる。(この書評を読む)

行くぞ!冷麺探険隊 / 東海林 さだお
行くぞ!冷麺探険隊
  • 著者:東海林 さだお
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(253ページ)
  • 発売日:1999-01-00
  • ISBN-10:4167177404
  • ISBN-13:978-4167177409
内容紹介:
盛岡で冷麺を、小樽で寿司を、高松でうどんを、博多でフグをラーメンを、ハワイでマイタイを、そして極めつきはアフリカのサファリでシャンペンつきの朝食を…。ショージ君初めての、世界を股にかけた旅行記。とくに『少年王者』世代が体験するアフリカは、おとなのためのディズニーランドの趣。

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【佐賀県】
山下 惣一『村からのホンネ―きょうからあしたの農を考える』(ダイヤモンド社)

評者:森まゆみ

九州で佐賀県だけがヤマイモに関心が低いのはナゼか。それは旧鍋島藩に百姓がきびしく搾取され、遊び心も育たなかったからではないか、という。(この書評を読む)

村からのホンネ―きょうからあしたの農を考える / 山下 惣一
村からのホンネ―きょうからあしたの農を考える
  • 著者:山下 惣一
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 装丁:単行本(191ページ)
  • ISBN-10:4478940797
  • ISBN-13:978-4478940792

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【長崎県】
飯嶋 和一『黄金旅風』(小学館)

評者:豊崎 由美

大きな富をもたらす貿易の拠点として、様々な人物が私利私欲を肥やさんと長崎を食い物にする。そんな悪党どもの所業に苦しむ民を救うため、長崎を「誰もが、穏やかに、その日その日を生きて、家族や朋輩を愛し、隣人を尊んで、家柄やら生国やら、人種やら財やら、つまらぬことは一切こだわらず、ここに住み暮らす皆が助け合って居きられるようなそんな『約束の地』に」するため、知恵と勇気と俠気と慈愛をもって戦う二人の男の立ち回りを描いてドラマチック。読後、胸の中を清々しい風が吹き抜けていく。(この書評を読む)

黄金旅風 / 飯嶋 和一
黄金旅風
  • 著者:飯嶋 和一
  • 出版社:小学館
  • 装丁:文庫(604ページ)
  • 発売日:2008-02-06
  • ISBN-10:4094033157
  • ISBN-13:978-4094033151
内容紹介:
江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平… もっと読む
江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平左衛門と、その親友、内町火消組惣頭・平尾才介だった。代官であった平左衛門の父・末次平蔵の死をきっかけに、新たな内外の脅威が長崎を襲い始める。そのとき、卓越した政治感覚と強靱な正義感を持つかつての「大馬鹿者」二人が立ち上がった。

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【熊本県】
夏目 漱石『草枕』(新潮社)

評者:中野 翠

私には『草枕』は「仙と俗・必死の攻防戦」のように感じられる。(この書評を読む)

草枕  / 夏目 漱石
草枕
  • 著者:夏目 漱石
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(242ページ)
  • ISBN-10:4101010099
  • ISBN-13:978-4101010090
内容紹介:
智に働けば角がたつ、情に棹させば流される-春の山路を登りつめた青年画家は、やがてとある温泉場で才気あふれる女、那美と出会う。俗塵を離れた山奥の桃源郷を舞台に、絢爛豊富な語彙と多彩な文章を駆使して絵画的感覚美の世界を描き、自然主義や西欧文学の現実主義への批判を込めて、その対極に位置する東洋趣味を高唱。『吾輩は猫である』『坊っちゃん』とならぶ初期の代表作。

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【大分県】
赤神 諒『大友二階崩れ』(日本経済新聞出版社)

評者:本郷 和人

有能をもって知られる大友家臣団の面々は、それぞれの思惑に従って虚々実々の駆け引きを展開し、それが「二階崩れの変」という陰惨な事件に発展していく。(この書評を読む)

大友二階崩れ / 赤神 諒
大友二階崩れ
  • 著者:赤神 諒
  • 出版社:日本経済新聞出版社
  • 装丁:単行本(282ページ)
  • 発売日:2018-02-21
  • ISBN-10:4532171466
  • ISBN-13:978-4532171469
内容紹介:
日経小説大賞(選考委員:辻原登、髙樹のぶ子、伊集院静)受賞作。豊後の大友宗麟が世に出た政変を重臣達の視点で描く本格歴史小説!

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【宮崎県】
中村 啓信(現代語訳)『新版 古事記 現代語訳付き』(角川学芸出版)

評者:楠木健

歴史書というよりも神話だが、鮮烈に描かれる物語を通して、日本の原点を肌で感じる。(この書評を読む)

新版 古事記 現代語訳付き /
新版 古事記 現代語訳付き
  • 翻訳:中村 啓信
  • 出版社:角川学芸出版
  • 装丁:文庫(607ページ)
  • 発売日:2009-09-25
  • ISBN-10:4044001049
  • ISBN-13:978-4044001049
内容紹介:
8世紀の初め、古代国家形成途上にあった大和朝廷が編纂した、天地創成から推古天皇に至るまでの、神々につながる天皇家の系譜と王権の由来書。人間的で叙情豊かな多くの歌謡と伝承は、口誦時代… もっと読む
8世紀の初め、古代国家形成途上にあった大和朝廷が編纂した、天地創成から推古天皇に至るまでの、神々につながる天皇家の系譜と王権の由来書。人間的で叙情豊かな多くの歌謡と伝承は、口誦時代の古代の風俗を色濃く伝えている。より原本に近づけるために厳密な史料研究の成果を盛り込み、歴史・民俗・文学などの諸方面からの要求に応える、文庫として望みうる最高の内容をほこる。便利な歌謡各句索引・主要語句索引付き。

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【鹿児島県】
島尾ミホ『海辺の生と死』(中央公論新社)

評者:酒井順子

島尾ミホは、奄美大島のすぐ隣にある、加計呂麻(かけろま)島の旧家に生まれました。戦時中、島に駐屯していた特攻隊長の島尾敏雄と出会い、敗戦後に結婚したのです。(この書評を読む)

海辺の生と死 / 島尾 ミホ
海辺の生と死
  • 著者:島尾 ミホ
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(239ページ)
  • 発売日:2013-07-23
  • ISBN-10:4122058163
  • ISBN-13:978-4122058163
内容紹介:
幼い日、夜ごと、子守歌のように、母がきかせてくれた奄美の昔話。南の離れ島の暮しや風物。慕わしい父と母のこと-記憶の奥に刻まれた幼時の思い出と特攻隊長として島に駐屯した夫島尾敏雄との出会いなどを、ひたむきな眼差しで心のままに綴る。第十五回田村俊子賞受賞作。

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【鹿児島県】
海音寺潮五郎『西郷隆盛』、司馬遼太郎『翔ぶが如く』(KADOKAWA/文藝春秋)

評者:丸谷才一,木村尚三郎,山崎正和

(丸谷)海音寺さんはまず西郷隆盛の外見に惚れるんです。男っぷりがいいというんですね。本当にそう思いこんでいる。で、次には性格に惚れ、見識に惚れ、何から何まで無茶苦茶に気に入っている。たしかに惚れなければ魅力がわからないということはあります。(この書評を読む)

新装版 西郷隆盛 一  / 海音寺 潮五郎
新装版 西郷隆盛 一
  • 著者:海音寺 潮五郎
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:文庫(480ページ)
  • 発売日:2017-05-25
  • ISBN-10:4041050677
  • ISBN-13:978-4041050675
内容紹介:
史伝文学の最高峰、新装版で4か月連続刊行!

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新装版 翔ぶが如く   / 司馬 遼太郎
新装版 翔ぶが如く
  • 著者:司馬 遼太郎
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(346ページ)
  • 発売日:2002-02-08
  • ISBN-10:4167105942
  • ISBN-13:978-4167105945
内容紹介:
明治維新とともに出発した新しい政府は、内外に深刻な問題を抱え絶えず分裂の危機を孕んでいた。明治六年、長い間くすぶり続けていた不満が爆発した。西郷隆盛が主唱した「征韓論」は、国の存亡を賭けた抗争にまで沸騰してゆく。征韓論から、西南戦争の結末まで新生日本を根底からゆさぶった、激動の時代を描く長篇小説全十冊。

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【沖縄県】
与那原 恵『首里城への坂道 - 鎌倉芳太郎と近代沖縄の群像』(中央公論新社)

評者:鷲田 清一

もし彼がいなかったら、そして彼が撮りためた乾板写真と手書きで複写された史料がなかったら、首里城の取り壊しの阻止も後の復元も、紅型(びんがた)染織の技法の再生もありえなかった。が、その縁の下ともいうべき仕事は、死後30年ほとんど忘れ去られている(この書評を読む)

首里城への坂道 - 鎌倉芳太郎と近代沖縄の群像 / 与那原 恵
首里城への坂道 - 鎌倉芳太郎と近代沖縄の群像
  • 著者:与那原 恵
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(486ページ)
  • 発売日:2016-11-18
  • ISBN-10:4122063221
  • ISBN-13:978-4122063228
内容紹介:
大正末期から昭和初期、大々的な琉球芸術調査を行い、貴重かつ膨大な資料を残した研究者・鎌倉芳太郎。稀代の記録者の仕事を紹介する本邦初の評伝であるとともに、彼に琉球文化の扉を開いた人々の姿、そしてそれが現代に繋がるまでの熱きドラマを描く。第二回河合隼雄学芸賞、第十四回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞をダブル受賞。

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【沖縄県】
真藤 順丈『宝島』(講談社)

評者:大森 望

“生々流転する沖縄の叙事詩”に身を委ねる濃密な読書体験、怒濤の540ページだ。(この書評を読む)

宝島 / 真藤 順丈
宝島
  • 著者:真藤 順丈
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(541ページ)
  • 発売日:2018-06-21
  • ISBN-10:4065118638
  • ISBN-13:978-4065118634
内容紹介:
さぁ、起きらんね! 日本の宝の島を、三人の幼馴染が駆け抜ける。超弩級の才能が放つ青春と革命の一大叙事詩!!

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