読書日記
夏休み企画〈書評でGo on a Trip!〉アジア編

アジアにGo!
【モンゴル】
■楊 海英,新間 聡『文庫 モンゴル最後の王女: 文化大革命を生き抜いたチンギス・ハーンの末裔』(草思社)
前書き:楊 海英本書は、一人のモンゴル人女性の生き方から、中国の民族問題の背景と本質を描こうとしたものである。文化大革命期に特化しているが、文革期ほど社会主義中国を代表する時代はほかにない。(この書評を読む)
【モンゴル】
■陳 舜臣『耶律楚材 草原の夢』(集英社)
評者:山折 哲雄その遊牧民族の凶暴なエネルギーの膨張をどのようにして食いとめ、秩序ある国家の鋳型に融けこましていくのか、――この困難な政治課題に応えるべく中国大陸の側から彗星のごとく登場してきた人物が、本書の主人公・耶律楚材(やりつそざい)である。 (この書評を読む)
【中国】
■落合 淳思『殷 - 中国史最古の王朝』(中央公論新社)
評者:出口 治明殷については、酒池肉林に耽り国を滅ぼした暴君紂王の逸話がよく知られているが、これは、殷滅亡後1000年以上を経過した後世の文献資料(『史記』など)に依る創作である。甲骨文字を分析すると、紂王(帝辛が本名)は、むしろ有能な君主であって集権化を進めたため反乱を招いた様子が窺える。(この書評を読む)
【中国】
■閻連科『黒い豚の毛、白い豚の毛: 自選短篇集』(河出書房新社)
評者:張 競閻連科において、文学の言葉は羽毛のように軽く散ってしまった命のための鎮魂歌であり、仲間たちを過去の海に残してきたことに対する後ろめたさが織りなす懺悔の音符である。(この書評を読む)
【中国】
■井波 律子『中国文章家列伝』(岩波書店)
評者:張 競漢から清にいたるまで、詩人、小説家や戯曲家など十人の生涯を描く。去勢の刑罰を受けた司馬遷、纏足の靴で酒を飲み交わす楊維楨、赤貧のなかで『儒林外史』を書き上げた呉敬梓。個性豊かというより、強烈な性格の持ち主ばかりである。 (この書評を読む)
【中国】
■藤井 省三『村上春樹のなかの中国』(朝日新聞社)
評者:張 競ところが、村上春樹にはそのような威圧感はない。海外の読者にとって彼はあたかも身近な知人のようだ。彼ならきっと自分のたわいない独り言や不平を静かに聞いてくれるだろう、とそんなふうに感じている。だから、日本文学が警戒されていた韓国でも村上春樹がヒットし、反日デモが起きた頃も中国では村上春樹の作品が相変わらず人気だった。(この書評を読む)
【中国】
■松本 紘宇『中国コメ紀行 すしの故郷と稲の道』(現代書館)
評者:平松 洋子なれずしは飯をじっくり乳酸発酵させる魚の保存法で、紀元二、三世紀、中国南方の漢民族に伝わったという。こくのある酸味とうまみに魅せられ、その歴史を自分の舌でたしかめるために奥地へ分け入ってゆくのだ。(この書評を読む)
【中国】
■廉 薇,辺 慧,蘇 向輝,曹 鵬程『アントフィナンシャル――1匹のアリがつくる新金融エコシステム』(みすず書房)
解説:西村 友作芝麻信用のスコアは、アリペイや余額宝、花唄といったアントフィナンシャルが提供する金融サービス利用することで点数が高くなる仕組みになっており、信用スコアが一定基準を超えると、様々な信用サービス(特典)を受けることができる。例えば、借家やホテル、レンタカー、シェア自転車などのデポジットが不要になったり、消費者金融でお金が借りやすくなったりする。(この書評を読む)
【北朝鮮】
■太 永浩『三階書記室の暗号 北朝鮮外交秘録』(文藝春秋)
評者:橋爪 大三郎北朝鮮という国の内情をつぶさに知るほど、この国が他国と異なる社会秩序に支配されているとわかる。核心階層/基本階層/動揺階層/敵対階層、の区別がある。(この書評を読む)
【北朝鮮】
■村上 龍『半島を出よ』(幻冬舎)
評者:豊崎 由美この小説の行間からは、「もっと想像力を!」という作者の声が聞こえてきます。自分ではない誰か、自分とは違う立場、自分の知らない世界、まだ見ぬ明日、マイノリティの境遇、想像するだけで気持ちが萎えたりイヤな気分になったりするようなこと。そういったものに思いを飛ばす力こそが、今の日本人にもっとも欠けているのではないか。そんなことを深く考えさせられる小説なのです。(この書評を読む)
【韓国】
■ハン・ガン『少年が来る』(クオン)
評者:蜂飼 耳抑圧された声や理不尽に抹殺された声に重なり、言葉による新たな視点の構築を試みる方向も、小説という言語表現に備わる性格と機能だ。ハン・ガンは、まだ子供だった頃に身のうちに打ちこまれた出来事と向き合い、小説という方法と一体となり、書き進めた。ここには書き手としての誠実さがあると思う。(この書評を読む)
【韓国】
■パク・ミンギュ『短篇集ダブル サイドA』(筑摩書房)
評者:都甲 幸治本書には、SFやファンタジーなどを含む多様な短篇が収録されている。その全ての作品において、登場人物たちは精一杯苦闘し、死んでいく。そして読者は彼らと共に生きる意味を探す。韓国文学の最良の成果がここにある。(この書評を読む)
【韓国】
■チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)
評者:鴻巣 友季子「俺も旦那の稼ぎでコーヒー飲んでぶらぶらしたいよなあ……ママ虫もいいご身分だよな」と。「ママ虫」というと可愛い響きがあるが、元々はネットスラングで、「害虫」のようなかなり侮辱的な含意をもつ。(この書評を読む)
【韓国】
■ミン・ジン・リー『パチンコ(Pachinko )』(Head of Zeus)
評者:渡辺 由佳里しかし、これは日本人を糾弾する小説ではない。1人の人間として「読者」になれば、誰でも感情移入できるし、家族ドラマとして楽しめる本だ。私は、若い頃に観たNHK連続テレビ小説の「おしん」を思い出した。そういう雰囲気もある。(この書評を読む)
【香港】
■小川 さやか『チョンキンマンションのボスは知っている: アングラ経済の人類学』(春秋社)
評者:武田 砂鉄もつれた状態をほどくのではなく、もつれたまま過ごすチョンキンマンションの社会。全体像が見えない構造の中で無数に生まれる営みが、いい加減なのに、なぜだか力強い。(この書評を読む)
【香港】
■陳浩基『ディオゲネス変奏曲』(早川書房)
評者:若島 正そして、日本の読者にとっては、日本の漫画やポップスといった文化だけでなく、この短篇群に日本産の本格ミステリ、さらには新本格ミステリの影響を読み取らずにはいられない。横溝正史に伏線の張り方を学んだという陳浩基は、借りたものの寄せ集めから、華文(中国語)ミステリの奇妙な華を咲かせた。(この書評を読む)
【台湾】
■甘耀明『冬将軍が来た夏』(白水社)
評者:張 競問われるのは現代文明の外側から何が見えるか、責任のある死のためにはどう生きるべきかである。(この書評を読む)
【台湾】
■『シャマン・ラポガンの海洋文学』(草風館)
評者:高樹 のぶ子種類と用途が明確にされているのは魚に限らず、森の樹木も使用目的により種類が決められている。木を切るときは「あなたを殺すが、あなたはタタラ(トビウオ漁用の舟)に生まれ変わる」と語りかけ許しを請う。樹木にも魚にも「人格」があり、人間と対等に扱われる。(この書評を読む)
【フィリピン】
■司凍季『椰子の血: フィリピン・ダバオへ渡った日本人移民の栄華と落陽』(原書房)
評者:松原 隆一郎ダバオには日比の混血児も多いが、それは日本人の土地所有が認められなかったことに起因する。フィリピン人の妻を娶(めと)り、しかし籍を入れずにフィリピン国籍を得た我が子に土地を持たせようとするためだ。多くの悲劇はここに始まる。(この書評を読む)
【フィリピン】
■谷口 美代子『平和構築を支援する―ミンダナオ紛争と和平への道―』(名古屋大学出版会)
解説:谷口 美代子こうした現場経験を通して痛感したのは、ミンダナオ紛争をめぐる問題が「国家 対 反政府勢力」といった単純な対立構造だけでは説明しきれないということだった。ミンダナオにとどまらず、紛争影響地域では、一見矛盾したことが重なり合う事態に頻繁に遭遇する。それゆえに「なぜ、国家からの分離独立を目指す人びと同士が殺し合うのか」「なぜミンダナオでは紛争や暴力が延々と続いているのか」などの疑問が自然と浮かびあがってきたのである。(この書評を読む)
【タイ】
■プラープダー・ユン『新しい目の旅立ち』(株式会社ゲンロン)
評者:都甲 幸治この世界のどこかにまだあるはずの真実を探したい。こうしたユンのロマンティックな想いは、彼らの暮らしや笑顔に触れるうちに崩れ去る。そして彼は悟るのだ。今ここにあるもの全て、原田さんも自分も、都市さえも、かけがえのない神秘ではないか。 (この書評を読む)
【タイ】
■空族(富田克也・相澤虎之助)『バンコクナイツ: 潜行一千里』(河出書房新社)
評者:柳下 毅一郎『バンコクナイツ』では、監督兼主演の富田克也がタイを発見してゆくさまがくまさにリアルタイムでとらえられている。バンコク地獄めぐりののち、イサーンへたどりついたときの開放感、それはまさに富田が感じていたことのはずである。もちろんすべてがフィクションなのだが、だがそこにはまちがいなく真実がある。ドラマでもドキュメントでもない境地に映画は到達するのだ。(この書評を読む)
【ベトナム】
■マルグリット・デュラス『愛人 ラマン』(河出書房新社)
評者:辻原 登老いたデュラスにある男性が「若いころはおきれいだったと、みなさん言いますが、若いころのお顔よりいまの顔のほうが私は好きです、嵐のとおりすぎたそのお顔のほうが」と言ったそうだ。 (この書評を読む)
【ベトナム】
■近藤 紘一『サイゴンから来た妻と娘』(文藝春秋)
評者:木村 尚三郎ベトナム人は子供を育てるとき動物を飼い慣らすのと同じ態度で臨んでいる。子供というのは本来的には性悪なものだから、力をもって一つの枠組みを与え、強い子につくりあげていく、というのがベトナム式育て方で、どんどん叱り飛ばすし、こき使う。このしつけは学業だけでなくて、身体づくりにもおよんでいます。(この書評を読む)
【ベトナム】
■バオ・ニン『戦争の悲しみ』(めるくまーる)
評者:辻井 喬作品の主人公は勝利した人民軍の兵士なのだが、彼等の恐怖・友情・逃亡や、麻薬で苦痛を忘れようとする行動や恋愛などにも作家の目が生きていて、青春小説・恋愛小説、私小説としてさえも読める。政府は「人民と国家の利益から逸脱する文学は許されない」と批判し、再版を認めなかったと解説にあった。それを見て私は敗戦前の我が国の言論統制の時代を思い出した。愚かなことだ。(この書評を読む)
【ベトナム】
■多和田 葉子『旅をする裸の眼』(講談社)
評者:豊崎 由美私は自分が思っているような私なのか。私たちは〈みんな誰が監督なのか分からない歴史という映画の中で絶えず何かの役を演じ続けてい〉るだけではないのか。読む者をたじろがせずにはおかない、これは大変な傑作なのである。(この書評を読む)
【カンボジア】
■杉山 隆男『兵士に聞け』(小学館)
評者:猪瀬 直樹なかでもPKOでカンボジアに派遣された自衛隊員の話がおもしろい。ある兵士は高校時代、小遣いの大半をつぎ込みモデルガンや米軍の制服を買いあさる「軍事おたく」だった。そのころの彼の憧れはフランスの外人部隊である。とりあえず自衛隊に入った。(この書評を読む)
【インドネシア】
■川端 裕人『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社)
評者:村上 陽一郎現生人類がこの世に出現するのが数十万年前とするなら、ちょうどその頃までは「ヒト」属は、何種類もの共存状態だったのに、現生人類(ホモ・サピエンス)の世代になると、種としては「孤独」になった。そこにはどのような事情があったのか、それを最新の知見を元にしながら、解き明かすのが本書ということになる。(この書評を読む)
【バングラデシュ】
■辺見 庸『もの食う人びと』(角川書店)
評者:片山 修「食」という人間にとっての日常生活における原点、すなわち基本的ディテールにこだわりながら、今日的状況における人間存在について鮮やかに描き切っている。(この書評を読む)
【ネパール】
■田中 雅子『ネパールの人身売買サバイバーの当事者団体から学ぶ―家族、社会からの排除を越えて』(上智大学出版)
評者:旦 敬介メンバーのライフストーリーからは、人が売買被害に遭う状況が単純でなく、教育のない人ばかりでもないことがわかってくる。人身売買に限らないさまざまな人権被害者サポートへのヒントがある。(この書評を読む)
【インド】
■ブルーシープ, 板橋区立美術館『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』(ブルーシープ)
評者:旦 敬介南インドの小さな出版社タラブックスは二十二年前から独特な出版活動を展開して、世界的な成功を収めてきた。といっても、たくさん売れたという意味ではない。絵本を中心に、手で漉すいた紙に全ページをシルクスクリーンで手刷りするなど、工芸品のような本を中心にしているので、大量生産はできないのだ。(この書評を読む)
【インド】
■ジュンパ・ ラヒリ『停電の夜に』(新潮社)
評者:堀江 敏幸彼女の小説に登場するのは、多くの場合、カルカッタ出身のベンガル人を両親に持ち、ロンドンで生まれて幼少時にアメリカへ渡った彼女自身の来歴に近しい、移民とその周辺の人々である。(この書評を読む)
【インド】
■石井遊佳『百年泥』(新潮社)
評者:鴻巣 友季子離婚後、男が原因で借金を作り、南インドに「身売り」されてしまった中年女性が主人公だ。チェンナイの最大手IT企業で日本語教師をしているが、他者との意思疎通にいささか問題を抱えている模様。(この書評を読む)
【インド】
■山折 哲雄『愛欲の精神史1 性愛のインド』(角川学芸出版)
評者:張 競途轍もなくスケールが大きい。インドから説き起こし、ヨーロッパや中国にまで話を広げ、最終的には日本に帰着する。仏教の経典や西洋の思想書を博引苦証しながら、日本の古典から現代の小説にいたるまで縦横無尽に語る。(この書評を読む)
【インド】
■サタジット・レイ『ユニコーンを探して―サタジット・レイ小説集』(筑摩書房)
評者:牧 眞司レイは、日記、手紙、列車の旅、街の変わり者が語る与太話などを、物語の“きっかけ”に用いる。ただし、それは創作上の技巧というより、作者自身の肉声ともいうべきものだ。その心地よさに誘われて、読者は作品世界へと入りこんでいく。アイデアは真似できても、この語り口はなかなか真似できるものではない。(この書評を読む)
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